労働基準法では労働時間についてどのように定めているのか?

更新日:2023/09/30

労働基準法は会社が遵守すべき法令としては重要で、万が一違反をすると行政処分や刑事罰の対象になります。そのような厳格な法律において細かく厳しい規定が置かれているのが労働時間についての定めです。 このページでは、労働基準法において労働時間についてどのように定めているのかについてお伝えします。

日の労働時間の上限は8時間が原則

労働時間の制限について、原則として1日の労働時間の上限は8時間としていることを知っておきましょう。

労働時間に関する規定

労働時間について、労働基準法32条が次のように定めています。

(労働時間)
第三十二条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。

②使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

この規定によると、労働時間については原則として次のような制限が設けられていることになります。



  • 1週間で40時間が上限
  • 1日8時間が上限

どちらの上限も超えてはならないので、例えば1日の労働時間は7時間でも、週に6日働かせると42時間となってしまうので、労働基準法32条違反となってしまいます。
なお、労働基準法35条で1週間に1日は休日を与える必要があるので、1日5時間の労働を週7日させることは、労働時間に関する上限には違反しませんが、休日に関する定めに違反します。

契約では契約の内容を自由に決めることができる、契約自由の原則というものがあるのですが、労働時間に関する規定は当事者の契約でも変えることができない強行法規であると解釈されています。

そして、労働契約で1日の労働時間を10時間とする契約を結んでもその部分は無効とされ、法律通りの労働時間である8時間の労働と取り扱われます。

そのため、2時間は違法に働かせているという扱いになります。

労働時間に関する規定の適用がない人


労働時間に関する規定については労働者であれば、アルバイト・パートなど雇用形態に関わらず適用されます。
ただ、次の人については適用が及びません。

  • 農業・水産業
  • 管理監督者
  • 機密の事務を取り扱う者
  • 監視又は断続的労働に従事する者
  • 宿直・日直業務

農業・水産業については、天候などの自然条件に左右されるため、労働時間に関する規定がなじまないことが挙げられます。

管理監督者や機密の事務を取り扱う者については、会社側と一体として考えるべきであるため、労働時間に関する規定の適用がふさわしくないためです。
なお、機密の事務を取り扱う者とは、秘書の業務をするなど会社側と一体として考えることができる人のことをいいます。

監視又は断続的労働に従事する者については、通常の労働に比べると労働の内容が緩やかであることから、労働時間などの適用を認めなくても労働者保護に欠けるとはいえないためです。

宿直・日直業務については、巡視や非常時の対応に備えるもので、ほとんど労働をする必要がないことから、労働時間に関する規定を守る必要がありません。

よく問題になるのが管理監督者ですが、管理監督者といえるかどうかは、実際には非常に厳しく判定され、店長・部長・課長などの役職がついている人であっても会社の指揮命令下にあるような場合には管理監督者とは認定されません。

労働時間に関する法律に違反した場合のペナルティ

労働時間に関する労働基準法32条に違反した場合には、次のペナルティが課せられます。

  • 行政指導
  • 刑事罰


行政指導


まず、労働時間などの労働基準法に違反している場合には、行政指導が行われることになります。
行政指導の内容としては、事業所などへの臨検・帳簿や書類の提出を求める・使用者や労働者に尋問をする(労働基準法101条)、報告や出頭をさせる(104条の2)という権限が法律で規定されています。

これらの行政指導を拒んだ場合には、労働基準法120条4号・5号で、30万円以下の罰金という刑事罰に問われることになります。

刑事罰


また、労働時間の規定に違反して労働させた場合には、労働基準法119条1号で6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑に処せられる旨が規定されています。
懲役刑が設定されていることからも明らかなように、労働時間に関する違反は重大なものであるという認識が必要です。

会社名の報道などの可能性も

労働時間に関する違反は、会社名の報道などが行われる可能性があります。

上述したように、労働時間に関する違反は重大なものであり、刑事罰を逃れたとしても会社名が報道され、会社のイメージダウンにつながることがあります。
実際には後述する36協定を結んでいることが多いので、労働基準法32条に違反することは滅多にありません。
しかし、電通過労死事件の際には、36協定が無効になっていたことを含めて労働時間に関する報道が繰り返されました。

また最近では2023年8月にJR西日本で1ヶ月190時間を超える時間外労働があったと報じられています。
さらに、7月に八戸市の食品製造会社が書類送検されたニュースも報じられており、会社の規模を問わず、労働時間・長時間労働に関する報道の姿勢は非常に厳しいと考えておくべきでしょう。

1日の労働時間によって休憩の時間も異なる


なお、労働時間と合わせて休憩の時間についても把握しておきましょう。
上述したように、労働時間は休憩時間を除いた時間をいいます。
そして、休憩については、労働基準法34条で、次の区分に従って与える必要があります。

  • 6時間を超える場合には45分
  • 8時間を超える場合には1時間

8時間の労働をさせておきながら、休憩時間を30分しか与えないとしていると、労働基準法34条に違反することになり、労働時間に関する規定と同じように行政指導・刑事罰の対象となるので注意が必要です。

特別な労働時間に関する制度がある

以上の1日8時間・週40時間の労働時間制は原則で、業務の必要性や多様な働き方といった観点から、次のような労働時間に関する例外があります。

変形労働時間制


仕事によっては、特定の曜日にのみ忙しいということもありますし、月のうちで特定の週のみ業務が集中するということもあるでしょう。

そのため、1ヶ月を越え1年以内の一定の期間で平均週40時間の範囲に収まっていれば、労働時間に関する定めを超えることができる制度です。

変形労働時間制には、労働時間を1ヶ月単位で計算する1ヶ月単位の変形労働時間制と、1年単位で計算する1年単位の変形労働時間制があります。

フレックスタイム制


業務によっては、すべての労働者が一斉に始業しなくても良いものもあります。
始業時間や就業時間を労働者が決めることができる制度として、フレックスタイム制というものがあります。
フレックスタイム制では、1ヶ月~3ヶ月の精算期間を平均して、週40時間に収まっていれば良いとされています。

みなし労働時間制(裁量労働制)


みなし労働時間制とは、一定の時間労働したとみなして、給与を計算するもので、労働者は始業時間や就業時間を自由に決めることができる制度をいいます。
労働時間は、後述しますが会社の指揮命令下にあることをいいますが、外回りの営業職のように指揮命令下にあるといえるかどうかの判定が困難である職種が存在します。

このような職種の人に関しては、一定の時間労働したとみなすことが可能です。
みなし労働時間制(裁量労働制)には次の3つの種類があります。

  • 事業場外労働のみなし労働時間制
  • 専門業務型裁量労働制
  • 企画業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は職種が厳格に定められており、企画業務型裁量労働制は事業運営に関する企画・調査・分析に限られます。

残業をさせるには36協定を結ぶ必要がある

労働時間については上記のように1日8時間が上限ですが、現実には残業・早出などで時間外労働をしていることが多いです。
時間外労働をさせるにあたって、労働基準法はいわゆる36協定というものを結ぶことを必要としています。

残業などの時間外労働をさせるためには36協定が必要

残業などの時間外労働をさせるためには、36協定(さぶろくきょうてい)が必要です。
労働基準法36条は、使用者と労働組合が協定を結ぶことで、労働時間を延長し、休日に労働させることができます。
労働基準法36条に規定されている協定なので、実務では36協定という呼ばれ方をします。

時間外労働・休日労働をさせるための要件


時間外労働・休日労働をさせるための、労働基準法36条の要件を確認しましょう。
まず、労働基準法36条は、使用者と協定を結ぶ相手について、次の2つを規定しています。

  • 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合
  • 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者

労働組合、過半数を代表する人との間結ぶ協定は書面にする必要があり、その上で行政官庁(労働基準監督署)に届け出る必要があります。

36協定を結んでも上限はある

36協定を結んでいたとしても、無限に時間外労働・休日労働をさせていいわけではなく、労働基準法36条4項で次のように上限が定められています。

  • 月45時間
  • 年360時間

特別条項付き36協定を結んだ場合

仕事によっては、繁閑期があり特定の時期のみ忙しく、上記の時間外労働でも補い切れないこともあります。
そのような特別な事情があり、労使で合意した場合には、労働基準法36条6項で規定されている次の上限時間まで延ばすことが可能です。

  • 1ヶ月の時間外労働100時間未満
  • 時間外労働年間で720時間以内
  • 2~6か月の間の時間外労働・休日労働の平均は80時間以内

です。
なお、36協定の原則の月45時間を超えても良いのは年6回までです。

36協定違反にもペナルティがある

36協定に関する違反をした場合にもペナルティがあります。
上述の行政指導はもちろん、労働基準法119条1号で労働基準法36条6項に違反した場合の刑事罰も同様に定められています。
労働時間に関する会社名で報道されているものの多くが、36協定に違反しての長時間残業なので、やはり違反をしないように細心の注意が必要であるといえます。

労働時間に含まれる時間・含まれない時間

ここまで「労働時間」とだけお伝えしていますが、タイムカードに記載されている時間のみが労働時間になるわけではありません。

会社で労働時間として取り扱っていなかったものの、法律上は労働時間として扱われるものであり、タイムカードによれば労働時間の法令の範囲内になっていても、実際にはもっと多くの時間が労働時間と認定される結果、労働時間の法令違反であると認定されることがあるので注意しましょう。

労働時間に含まれる時間

そもそも労働時間とは、労働者が会社の指揮命令下にいる時間のことを指します。
そのため、タイムカード上で労働時間としてカウントをしていない場合でも、会社の指揮命令下にいる場合には労働時間に含まれることになります。
よく労働時間にカウントされないものの、実際には労働時間であるものとして、次のものが挙げられます。

  • 制服や作業着への着替えの時間
  • 始業前の朝礼
  • 始業前の清掃を義務付けている場合
  • 仮眠時間
  • 健康診断
  • 強制参加の勉強会・研修

労働時間が1日8時間であったとしても、始業前に30分清掃と朝礼を行っている場合には、8時間30分労働させていると法律では扱われます。
その結果、時間外労働をさせていることになるので、36協定がなければ労働基準法違反となります。
このような場合にカウントしていない労働時間についての給与の支払いをしていないため、あわせて労働基準法違反となることがあるので、注意が必要です。

労働時間に含まれない時間

労働時間に含まれないものとしては、労働者が会社の指揮命令下にいるといえない場合がこれにあたります。
問題になったものとしてよく挙げられるのが次の時間です。

  • 通勤時間
  • タイムカードの打刻を待っている時間
  • 自主的に始業前に清掃をしたり準備をしたりしている時間
  • 休憩時間

まとめ

このページでは、労働基準法では労働時間についてどのように定めているかについてお伝えしました。
労働時間については1日8時間・週40時間という制限が原則にあり、36協定で例外的に延長できるものの上限があります。
これらの規定は懲役刑のある刑事罰になりうるもので・報道されるなど事実上の不利益も大きなものです。
ただ、法令の定めや、実際の実務上の運用については、非常に細かいこともあり、知らず知らずに違反していることがあります。
労働時間に関する法令に違反していないか、心配になる点がある場合には、なるべく早く専門家に相談しておくようにしましょう。
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